乳歯では
生え代わりのトラブル
乳歯においては、永久歯への生え代わりで、勝手に抜けるものですが、稀に抜歯が必要になる事もあります。
・乳歯が抜けていないのに乳歯の裏側から(または横から)永久歯が生えてきたとき
本来永久歯が生えるために乳歯の下から上がってくると、乳歯の根っこを溶かして根っこが無くなり、自然に抜けて永久歯が生えてきます。
ところが、歯並び(口の中のスペースの問題)などで永久歯が下から上がってこれずに、乳歯の根っこを溶かす(根っこの吸収)事がうまく行かない事があります。
この場合は乳歯を抜いて、永久歯が生えやすくしてあげる事が必要になります。
虫歯の場合も
乳歯の虫歯が大きくなってしまい、根っこの治療をした場合などに、やはり永久歯が真下からうまく上がってこれずに、乳歯の根っこが残ってしまう場合があります。
この場合も乳歯を抜いてあげることで永久歯を生えやすくします。
乳歯で虫歯があまりにも大きくなってしまい、根っこまでボロボロになってしまった時には、永久歯との交換期よりも早期に抜歯する事もあります。
永久歯では
永久歯は一生使う歯ですので、「抜く」という選択肢は最終手段です。
重度歯周病で歯がグラグラになってしまったとき
歯には長い根っこがあり、「歯槽骨」という骨に埋まっている状態です。
歯周病が重度になると、この「歯槽骨」が炎症により溶けてしまい、歯が浅く埋まっているような状態になってしまい、歯茎(お肉の部分)だけに支えられて生えているような状態になってしまいます。
そうすると、歯が揺れてグラグラになってしまい、最悪の場合自然脱落を起こす場合もあります。
歯が揺れてグラグラになってしまった状態では、その周りの歯肉(はぐき)は炎症で出血がしやすかったり、膿が出たりするような状態になっていることが多いです。
そのような状態で放っておくと、痛みが出るだけでなく、血管内に菌が入り込む「菌血症」を起こす事もあり、そのままにしておくと全身の健康にも影響を及ぼします。
ただし、グラグラの状態は程度にもよるので、場合によっては歯周治療である程度は持たせることが出来る場合もあります。
虫歯が大きくなりすぎて根っこの部分までボロボロになってしまったとき
虫歯が大きくなってしまって、上に出ている「冠」の部分がダメになってしまっても、根っこがしっかりしていれば修復することが出来ますが、この「根」の部分がダメになってしまうと、修復が難しくなり、残念ながら抜歯することになります。
意外と落とし穴なのが、虫歯の治療で神経の治療をして、金属やプラスチック・陶材などで修復した歯の、根っこの部分に新たに虫歯が出来た時、当然その歯には神経が無いので、虫歯の痛みは出ません。
そのために(痛みが無いために)虫歯が進行しても気づかずに年月が経ってしまう事もあります。
そうすると、気づいたときには根っこの部分がボロボロになっていた、なんて事も少なくありません。
根っこの部分が割れたりヒビが入ってしまったとき
これは主に神経を抜いて数年が経過したときに起こりますが、ちょっとした力が加わった時や、歯ぎしりや食いしばりなどで長年力が加わった時にも起こります。
神経を抜いた歯は、割れたり欠けたりしやすくなります。
根っこの部分も同じで、力が加わった時に縦に割れることがあります。
縦に割れてしまったら、残念ながら、抜歯となります。
縦に割れた根っこは感染を起こしやすくなり、腫れたり痛みが出ることも多いです。
歯の根の先に感染を起こして繰り返し炎症を起こすとき
根が割れてしまった時に起きやすい症状ですが、割れていなくても、根の治療をしたことのある歯(神経を抜いた歯)は感染を起こしやすくなります。
原因としては、根の先にレントゲンに写らないような側枝(細かい枝分かれ)があったり、見えないところにヒビがあったりと様々です。
多少の炎症や膿が溜まる症状があっても、抗生剤や根の再治療で騙し騙し使う事も可能ですが、体調の悪い時や疲労のある時などに炎症を繰り返す事もあります。
そのような場合は、最終手段として抜歯する選択肢も出てきます。
怪我などで歯が抜けてしまったとき(抜歯と言うよりは脱臼・脱落)
歯の「脱臼」と言いますが、すぐに正しい処置が出来れば戻す「再植」することも可能ですが、それは難しい事が多いです。
「すぐに正しい処置」とは、一度抜けた歯の保存方法が一番のカギです。
抜けてしまった歯は「口の中で保存」するのが一番良いとされています。
または牛乳や生理食塩水に浸けて歯医者まで持っていく。
根っこの周りの組織が乾いたり変性しなければ、再植したときに戻る(定着する)可能性が高くなります。
そのため、脱臼してしまった歯は正しく保存して持っていけば、戻す事が出来、そうでなければ「抜歯」と同じ状態になります。
怪我などで「歯が折れた」とき
これも、根っこの部分がある程度無事であれば、根っこを使って修復することは可能ですが、根っこの部分まで折れてしまったら、残す事が出来ません。
悪さをする親知らず
親知らずは、きちんとまっすぐに生えてる方は少ないです。
現代の人は顎が小さくなってきているために、親知らずまで生えるスペースが足りない事が多いためです。
親知らずは「退化しやすい歯」の一つで、小さく生えてくる「矮小歯」だったり、親知らず自体生えない(存在しない)人もいます。
親知らずがあっても、一生歯茎の中(骨の中)に埋まったままのラッキーな場合もありますが、多くは何らかの位置に生えてきます。
生え方によっては、「不要の歯」となってしまいます。
・上の歯と下の歯で噛み合っていなくて、(どちらかしかまっすぐ生えていない)対合する歯茎に当たるとか、虫歯になるなど。
・斜めに生えていて、その手前の7番目の大切な歯との間に汚れが詰まりやすくなり、7番目の歯の虫歯の原因になったり、汚れが原因で歯茎が炎症を起こして腫れる事を繰り返す。
・斜めに生えていて、隣の歯に影響がなくても、そこの部分で物が詰まったりして炎症を起こしやすくなる、または虫歯になる。
・親知らずがまっすぐに生えていても、親知らず自体が虫歯になった時は、位置的に治療のための器具が届かず、治療不可能となってしまう場合もある。
・歯茎の中(骨の中)におとなしく埋まっていても、矯正治療などで歯を動かしたいとき、それが邪魔になってしまう場合。(便宜抜歯と言い、健康保険で抜くことが出来ません)
親知らずはトラブルを起こす事が多く、歯茎などに炎症が起きている状態では抜歯は不可能です。(炎症があると麻酔が効きにくいため)
そのため、トラブルを起こす親知らずは、体調の良い時や休暇の取れる時に抜くのが得策です。
まとめ
歯科衛生士として働いていて、抜歯の原因で多いのは、やはり虫歯と歯周病です。
年配の方で「総入れ歯」など多数歯を失っている方のほとんどは、歯周病により歯を失った方です。
一番失いやすい歯は、前歯から数えて6番目の歯「6歳臼歯」です。
この歯は、乳歯との交換ではなく、乳歯列の一番奥の更に奥の、何もない歯茎だった場所からニョキっと生えてきます。
そのために、「いつの間にか生えてる」事が多く、そして小さい子供の口の中では歯ブラシも届きにくく、更に噛む面の溝も深くて、「一番初めに虫歯にする歯」の定番です。
しかしながら、この「6歳臼歯」は全ての噛み合わせの中でも一番力のかかる歯で、咬む力の要になる歯です。
この歯が無くなってしまうと、噛むための一番の戦力を失うだけでなく、「踏ん張る」「力を入れる」がうまく行かなくなります。
子どものうちからの予防がとても大切ですが、大人になってからでも「気づいたとき」からでも予防は遅くありません。
少しでも「長持ち」につながります。
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